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キリンのひとりごと
 

「キリンのひとりごと」はオキナワグラフ(新星出版)にて連載されている法律エッセイです。弁護士法人那覇綜合(旧 宮﨑法律事務所)の所属弁護士が交代で記事を毎月執筆しています。憲法のこと、裁判員裁判のこと、沖縄の地域生活など、時節に合わせたタイムリーなテーマをとりあげながら、暮らしに関わる法律のおはなしを分かりやすく解説します。

 
【キリンのひとりごと Vol.02】 もしも・・・月の土地を所有することができたら
2010年 11月 10日(水曜日) 13:20

 

  2008年11月号掲載


秋ですね。月がきれいですね。中秋の名月は過ぎましたが、亜熱帯の島沖縄は11月になってやっと秋本番の感ですから、お月見というのも悪くないですね。
 さてさて、私たちは、地球からはるか38万キロメートル先にある月面の土地を所有することができるのでしょうか?どう思いますか?
 地球上の土地の所有であれば、その国の法律で定めますが、月となるとどの国の法律でも定めようがありません。そこで人類は国際条約で規律し、各国が承認することで国際社会のルールとして合意を形成します。こんな壮大なことについても、私たち人類は英知を出して来たんですね。
 月を含めた宇宙空間に対しても、これまでもいろんなことを考え条約をつくっています。もちろん、「必要は発明の母」でして、規律の必要があるからこそ決まりを作ろうということにはなるわけです。
一九五七年にソ連の人工衛星(スプートニク一号ですよ。覚えてますか?)が打ち上げられ、米ソで宇宙への進出が図られるようになりました。科学もめざましく発展します。そうすると、ルールが必要ですよね。そこで、国連では宇宙空間平和利用委員会で検討を重ね、一九六七年に「宇宙条約」が発効する訳です。この条約、正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」という長いもので、我が国は発効した年に国会承認しています。
宇宙条約では、月その他の天体を含む宇宙空間は、いかなる手段によっても国家による領有の対象にならないとしています。そして、宇宙空間と天体の探査と利用はすべての国に自由であり、全人類に認められる活動分野だとしているのです。この条約、よく読んでみると「宇宙飛行士を宇宙空間への人類の使節とみなし」とか「天体のすべての地域への立入りは自由である」とか書いてあって、なかなかメルヘンです。
また、一九七九年に国連総会で採択された「月協定」、正式名称「月その他の天体における国家活動を律する協定」というのもありまして、こちらでは、天体とその天然資源は「人類共同の遺産」であり、国家による取得の対象にならず、いかなる国家、非政府団体、自然人の所有にも帰属しないとしています。
 というわけで、この「月協定」によると、私たちが月の土地を所有することはできないと考えられます。また、「宇宙条約」からしても、いかなる国家も月を領有することができないので、どの国家も自国の責任で月の所有を認める権限をもっていないということになります。
 しかし、インターネットの検索をかけると、月の土地を売っているという会社がいくつかヒットします。ある会社のHPが説明するところでは、宇宙条約は、政府に対して規制するだけで、企業や個人が天体について権利を主張することについてははっきりかかれていないとか、月協定はたった6カ国しか支持しておらず、アメリカもロシアも中国も署名を拒否しており、月協定が批准されていないとかで、月の所有も違法ではないと書かれていました。
うーん、なんか随分と手前勝手な解釈だと思いますね。ちなみに、この会社によると、この会社の創設者が月の権利宣言書を作って国連・アメリカ・旧ソ連に提出して異議が出なかったので月の土地を販売し権利書を発行する会社を設立したとも書いてありました。うーん、それって、異議が出なかったというよりも、あまりにも荒唐無稽で国連や国家機関に無視されただけじゃないの?って気がします。そんな権利宣言書を受け付けて審査する機関があるのかも分かりませんし、まともに取り合ってもらえなかっただけでは?と言ったら失礼かな。ただ、この会社のHP見ていたら、月憲法なるものがつくられていて、創設者が暫定的に「月を統治する」とか、「彼の生命が続く間、最高位代表者として認められた地位にとどまる」とかあるんですよ。ちょっとスゴ過ぎます。
 でもまあ、月面に権利書付きの自分の土地があるってのも夢のある話かもしれませんね。ただ、この土地の所有も、いにしえの時代から長らく餅つきしているウサギさんや惜しまれながら旅立ったかぐや姫に失礼がないようにして欲しいよね。 
 この地球も平和であって欲しいと願うのと同様に、将来には宇宙空間だって平和がもたらされないと困りますね。宇宙条約では、軍事的利用の禁止についても定めていて、核兵器その他の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せたり、これら兵器を天体に設置したり、宇宙空間に配置することは禁止されています。天体は平和的目的のために利用され、天体上における軍事基地の設置、兵器の実権、軍事演習は禁止されているのです。
 しかし、この宇宙条約の定めもよく読んでみると問題ありですよ。
確かに、「天体」の軍事的利用は禁止されていますが、天体を除いた「宇宙空間」そのものでは、大量破壊兵器以外による軍事的利用は禁止されていないわけです。だからこそ、現在でも軍事的目的の人工衛星は野放し状態とも言われているし、軌道に乗らないICBM(大陸間弾道弾)を発射することは制約されていないと解釈されています。もっと進んで考えると、「天体」ではなく「宇宙空間」に宇宙基地を作ってそれを軍事基地にすることは、先ほどの宇宙条約の定めからすると禁止されていないことになります。
こういう解釈をするところから、国家間の紛争が勃発し拡大するんですよね。我々が強く願う「平和がイチバン」の思いが、宇宙を規律する国際条約にも反映させたいですね。そして、人類の科学の発展が、宇宙空間における軍拡競争を導かないように人類の英知を使わねばならないというべきでしょう。