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キリンのひとりごと
 

「キリンのひとりごと」はオキナワグラフ(新星出版)にて連載されている法律エッセイです。弁護士法人那覇綜合(旧 宮﨑法律事務所)の所属弁護士が交代で記事を毎月執筆しています。憲法のこと、裁判員裁判のこと、沖縄の地域生活など、時節に合わせたタイムリーなテーマをとりあげながら、暮らしに関わる法律のおはなしを分かりやすく解説します。

 
【キリンのひとりごと Vol.18】 「裁判員裁判雑感」(伊東 幸太朗)
2012年 3月 10日(土曜日) 00:00

 

オキナワグラフ 2010年3月号掲載

  
みなさんこんにちは。先月に引き続き裁判員制度についてお話ししたいと思います。先月号でも告知しましたが、私は1月に那覇地裁で裁判員裁判の弁護人として参加しました。県内では3番目の裁判員裁判事件でした。
そこで今月は、私が裁判員裁判に弁護人として参加した感想なんぞを語ってみたいと思います。
ただし、弁護士には守秘義務というものがありまして、任務遂行に当たって知った情報をむやみに話してはならないという義務もありますので、差し障りのない範囲でお話しします。
 
事件の打診
 今回の事件は傷害致死事件でした。いわゆる国選事件として法テラスから打診があったのが始まりです。昨年の7月頃だったと思います。国選というのは、自らの経済力では、弁護士を依頼できない被告人に対して、国が付ける弁護士のことをいいます。なぜ国が?と思う方もいらっしゃると思いますが、一定以上の犯罪は必要的弁護事件といって、弁護士を付けることが法律上義務づけられています。傷害致死事件も必要的弁護事件です。
この事件は、事実関係に争いはなく、量刑だけが争われるどちらかというと平易な事件でしたが、裁判員制度開始当初ということもあり、私の他にもう1人弁護人が付くこととなりました。
7月に弁護人になって、裁判が1月?と思われる方もいらっしゃるでしょう。裁判が始まるまでには、弁護人・裁判所・検察官が何度となく集まって事前の協議がもたれます。その準備もありますし、裁判員裁判は裁判員となる方々の負担も考え連日開廷ですから、日程調整もあり、1月に行うこととなりました。
事前の協議では、どのような流れで裁判を進めるのか、証拠にはどのようなものがあるのかなど、裁判当日の手続をスムーズに運ぶための取り決めが話しあわれます。
今回の事件では、3日間の連日開廷となりました。
 
《裁判1日目》
  初日は、午前中に裁判員選任手続き、午後から審理でした。
 裁判員候補者の方には、既に昨年12月頃、裁判員候補者であることの通知がいっています。その方々の中から、抽選で、約40名の方が今回の裁判員候補として呼び出され、選任手続きが行われました。体調不良だったり、事件の関係者と顔見知りだったりする方がいないかなどを聴き取り、最終的にはさらに抽選で6名の裁判員に絞り込まれました。万一の場合に備え、補欠の方も選ばれました。
午後からは審理が始まり、どのような事件なのかの説明やどのような証拠があるのかなど、検察官・弁護人双方からプレゼンテーションが行われました。この手続では、これまでの裁判とは大きく異なり、写真や図、パソコンを利用して、できるだけわかりやすい解説をするよう検察官・弁護人とも努力していたと思います。私たち弁護人も、証拠をモニターに映すなど工夫しました。プロの裁判官だけが相手ならば、ドカンと書類だけ渡して判断してもらえば済むというのがこれまでのやり方でしたが、裁判員にもわかりやすく裁判を行うために、このように大きく変わったのです。
 
《裁判2日目》
  2日目は、主に尋問が行われました。尋問予定者が1人出席できなくなるという予期せぬ出来事がありましたが、あらかじめ準備していたDVDを法廷で再生することで対処しました。これまでの裁判であれば、DVDを証拠とすることなどは滅多になく、書面で対応するだけだったと思います。裁判員によりよく理解してもらうためには、単なる書面の読み上げではなく、実際に話をしている場面を見てもらうのが良いのはいうまでもありません。ただ、このDVD、私のパソコンを使って再生したんですが、途中でストップしてしまうハプニングがありました。法廷には傍聴人も含めておそらく50名以上はいたと思います。私の思い過ごしだと思いたいんですが「なにやってんだ~、アホ弁護士が~」という無言の圧力がものすごく、私の弁護士人生でもっとも冷や汗をかいた瞬間でした。暑くもないのに汗がだらだら流れてきました。一応、その後は無事再生できました。
2日目で審理は終わりました。最後に検察官・弁護人がそれぞれ意見を述べて終了です。
 
《裁判3日目》
3日目は、審議と判決です。裁判員と裁判官が朝から夕方まで、どのような量刑がふさわしいのか議論します。この事件は量刑だけが争いでしたが、否認事件であれば、被告人が犯人なのかまで議論しなくてはなりません。とても1日で議論できるものではないと思います。一般市民の裁判員にそんな責任の重いことができるのかという議論もありますが、一般市民の感覚を取り入れることこそ裁判員制度の本質ですから、ナンセンスな議論でしょう。疑わしきは被告人の利益にというのが刑事裁判の原則ですから、一般市民の感覚でよく分からないとなれば、被告人は無罪なのです。
今回の事件では、懲役6年の実刑が科されました。暴行の結果、人が死んで6年が妥当なのか。被害者は3歳の我が子でした。皆さんも考えてみてください。