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キリンのひとりごと
 

「キリンのひとりごと」はオキナワグラフ(新星出版)にて連載されている法律エッセイです。弁護士法人那覇綜合(旧 宮﨑法律事務所)の所属弁護士が交代で記事を毎月執筆しています。憲法のこと、裁判員裁判のこと、沖縄の地域生活など、時節に合わせたタイムリーなテーマをとりあげながら、暮らしに関わる法律のおはなしを分かりやすく解説します。

 
【キリンのひとりごと Vol.16】 「よのなか科」(宮﨑政久)
2012年 1月 10日(火曜日) 00:00

 

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オキナワグラフ 2010年1月号掲載

 

学校の授業科目にはいろいろあるようですが、先日、興南中学校で「よのなか科」という授業に参加しました。これがなかなか興味深いものです。
この授業は、「よのなか」、つまり世の中で正解のない問題を取り上げて、教師ではない大人(保護者)と生徒が一緒に考え、議論するというものです。  

 また、テーマ設定がおもしろい。「お金と人生と自分の関係」、「中学生はもう大人?まだ子供?」「ハンバーガー屋さんの店長になってみよう!」「命は誰のものか~自殺と安楽死を考える~」いずれも、まさに正解のない命題であることから、大人も生徒も一緒に考え、悩み、議論することが出来るのでしょう。

  先日は、「あなたなら死刑判決を言い渡せますか?」という授業に参加しました。

冒頭、この授業を創ろうとした理由を担当の門林良和先生が説明しました。前回の「いのちの価値」という授業では、いのちの価値は平等なのかということを、列車事故での損害賠償訴訟を例に、実際の裁判で認められた損害賠償額には人によって違いがあることを題材として、いのちの価値に違いがあるのかを議論しました。その際、ある生徒が「もし列車に乗っていたのが死刑囚だったら賠償金を払う必要があるんだろうか?」これがきっかけとなって、死刑とは何かを考える授業をやろうと思ったというのです。
素晴らしい!こんな先生がいるんですね。生徒のつぶやきや悩みを我が事として受けとめて、それを授業にしてしまう。とってもチャレンジングじゃないですか。大人の責任を果たしているなあと実感した次第です。
この授業は、社会科の先生お二人が連携しながら進めて行くのも特徴です。門林先生と玉城守康先生が教室の中をぐるぐる回りながら、ひとりの先生が説明しグループで討論している間に、もう一人の先生はみんなの前で発表するのに適切な意見を口にしている生徒をピックアップしていて、説明、グループ討論、発表とテンポ良く授業が進むことにも感心しました。
さて、この授業、導入から考えさせられます。最初の質問は、「あなたの大切な人の命が奪われたら、その犯人はどのように罪を償うべきか?」です。みんなで大切な人のことを頭に浮かべて、被害者、遺族の立場から発想します。当然、死刑や厳罰を求める意見が多数を占めるのです。
次の質問は、「あなたの大切な人が誰かの命を奪い、犯人として罪に問われたら、どのように罪を償うべきだと思うか?」今度は、加害者、加害者家族の立場から考えます。ここで、「求める償いの形」は、立場によって違いが出る場合があることを認識することになります。さっきは死刑を求めたけど、今度は無期懲役にして欲しいと思うなど、大人も生徒もいろいろな意見を述べます。
そして、光市母子殺害事件、秋田県連続児童殺害事件、足利事件を簡潔に示して自分ならどんな判決をするかと迫ります。光市事件は死刑を求める遺族の声を紹介し、同時に犯人が死刑になっても遺族は救われないという別事件の被害者の声も紹介します。秋田事件の最初の殺害は子殺し事案であり、被害女児の祖父母にとっては、加害者が実の娘であり、被害者の立場、加害者の立場の意味を考えさせられます。足利事件はえん罪のもつ怖さを知ることができます。
その上で、「他人の命を奪った者は、自らの命をもって償うべきである」という意見に賛成か反対か、それぞれにグループで議論をするのです。
私もゲストティーチャーとして参加し、世界の死刑制度の現状を説明しました。死刑存置国と死刑廃止国の割合を比較すると死刑廃止国がほぼ四分の三を占めますが、人口比でみると存置国人口約44億人に対し廃止国人口約20万人となり、世界人口の約七割は死刑存置国にあることになります。長い歴史からみれば、目には目をという時代から始まり、当然死刑は廃止の傾向にあると言えますが、それ自体が重要ではありません。刑罰として死刑を含めどのような制度を持つのかは、それぞれの国において国民が考えて決めるべき社会制度のひとつなのです。死刑というのは、冒頭の質問からも分かるように、立場によって見方が大きく変わるといえます。人の死生観、人生観そのものともいえ、人によって意見が異なることは至極当然のことです。このようなことについて、自分で考え、他人の意見を真摯に聞き、議論をし、制度として決めて運用していくことが最も大切なことです。相容れないからといって他人の意見を聞かないという態度はいけませんし、自由に意見が述べられる社会である必要も痛感します。
死刑という人生観にかかわる命題ですから、賛成意見・反対意見いずれも正解です。そして、悩んで、よく分からなくて意見が述べられなかったというのも正解です。生きること、いのちとは、社会とは、いろいろな重たい命題を真剣に考えることが大切で、意見がまとまらないことだって大正解だと講評しました。
 
 

中学生が大人と一緒になって真剣に考える素晴らしい授業だと感動したひとときでした。 

 

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