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キリンのひとりごと
 

「キリンのひとりごと」はオキナワグラフ(新星出版)にて連載されている法律エッセイです。弁護士法人那覇綜合(旧 宮﨑法律事務所)の所属弁護士が交代で記事を毎月執筆しています。憲法のこと、裁判員裁判のこと、沖縄の地域生活など、時節に合わせたタイムリーなテーマをとりあげながら、暮らしに関わる法律のおはなしを分かりやすく解説します。

 
【キリンのひとりごと Vol.15】 「採用内定取消を避ける為に」(宮﨑政久)
2011年 12月 10日(土曜日) 09:00


オキナワグラフ 2009年12月号掲載

 

 

 12月になりました。ちょうど一年前を思い返すと、派遣切りに内定取消、住居の手当から年越し派遣村まで、本当に厳しい年の瀬でした。本年4月に入社する採用内定通知を受けた後に内定を取消された学生のうち、就職先を見つけられたのは実に4割にとどまるということで、現在でも厳しい経済状況、経営環境に変わるところはないのが実情です。

 政権交代し、本年10月には、民主党政権のもとで緊急雇用対策が発表されました。多くの対策が実効性をもち、雇用対策自体その必要がないほどに社会経済が回復することを念願しています。ただ、この中には、雇用調整助成金など自民党政権のもとでの政策を引き継いだものも多々あります。今に始まったわけではない制度については、さらに広く周知を図って、困っている方に多くの手を差し伸べたいものですね。 

  では、内定取消について、法はどのような定めをしているのでしょうか。 

 まず、職業安定法では、厚生労働大臣は、労働者の募集を行う者に対して必要な指導助言をすることができることになっています。そこで、職業安定法施行規則に基づいてハローワークによる指導が行われています。

 厚生労働省では、「新規学校卒業者の採用内定取消しの防止について」というパンフレットを配布しています。これによると、新規学卒者の採用内定取消を行おうとする事業者は、あらかじめハローワークと学校長の両方に通知することが義務化され、ハローワークが一元的に内定取消事案を把握できるようになりました。 また、採用内定取消をおこなった場合、状況によっては企業名が公表されることになりました。特に、「内定取消を行わざるを得ない理由についての十分な説明を行わなかったとき」や「内定取消となった学生に対して就職先確保に向けた支援を行わなかったとき」には、企業名公表がありうるのです。また、採用内定取消となってしまった学生から補償要求があれば誠意をもって対応すること、とも定められています。 内定取消となってしまった学生は、場合によって一年間就職が遅れるということもありうるわけでして、必要に応じて補償もあることは当然です。 事業者の方は、内定取消は簡単には出来ませんし、対応を誤ると大変に大きな痛手を受けることに留意してください。企業名の公表は本年もすでに行われており、公表されている企業名を見ると、企業の大小に関わらないことがわかります。

  ちなみに、厚生労働省からは、「採用内定取消の防止のための支援策」も打ち出されています。これは、景気変動などの経済上の理由から事業活動の収縮を余儀なくされた事業主が、雇用する労働者を一時的に休業等させる場合や残業削減を実施することによって、雇用を維持するという場合に、賃金等の一部を助成する制度です。要は助成金が出るということです。この中では、内定取消となった学生を雇用する場合には100万円の奨励金が支給されるものもあります。ぜひともこのような制度も周知され、活用が進むといいですね。 

  ところで、採用内定は正式な雇用契約書を締結する前の段階です。採用が4月1日だとすると、内定はもっともっと早い段階です。この段階では、契約が成立しているのでしょうか。そもそも採用内定とは法的にはどういう取扱いを受けるのでしょうか。 

  代表的な裁判例で、大日本印刷事件があります。この事例は、4月の入社目前にした2ヶ月前に内定を取消された学生が、従業員としての地位の確認を求めて訴訟を提起したものです。

 具体的には、学生は会社から採用内定の通知を受けており、学生からも勝手に入社を取りやめないという内容の誓約書を提出しています。そして、誓約書の提出以降入社日まで特別の入社手続きは予定されず、学生は、大学から推薦を受けており、大学では推薦を受けて内定をもらった学生に対して確実に就職するよう指導を徹底しており、この学生も内定を得て他企業への応募を辞退していました。   

 このような事情のもと、裁判所は、企業からの採用内定通知と学生からの誓約書の提出によって労働契約が成立したと判断しました。ただ、この労働契約には、一定の事情のある場合には、企業の側に解約権が留保されているとして、例えば単位が取得できなかったなどの事情があれば、企業が内定を取消すことができるとしたわけです。ただ、企業の側が解約権を行使できるのは、採用内定時に知ることができないような事実につき、これを理由に採用内定を取消すことが合理的で社会通念上相当であることが必要と制約をかけて、学生の立場にも配慮を示しているのです。

 他の裁判例を見ると、内定後の経営悪化を理由とした内定取消はなかなか正当化されません。やはり、企業はその年の景気動向や今後の経済予測も十分にふまえて慎重に採用計画を立てるべきであり、自社の経営が悪化したリスクを内定取消という形で学生に負担させるような結論は合理的でなく、社会的に相当という判断はしてもらえないということでしょう。

 厳しい時代でも、事業者も新卒者も幸せになれる年の瀬でありたいですね。

 

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