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キリンのひとりごと
 

「キリンのひとりごと」はオキナワグラフ(新星出版)にて連載されている法律エッセイです。弁護士法人那覇綜合(旧 宮﨑法律事務所)の所属弁護士が交代で記事を毎月執筆しています。憲法のこと、裁判員裁判のこと、沖縄の地域生活など、時節に合わせたタイムリーなテーマをとりあげながら、暮らしに関わる法律のおはなしを分かりやすく解説します。

 
【キリンのひとりごと Vol.05】 バレンタインも甘くない
2011年 2月 10日(木曜日) 00:00

 

  2009年2月号掲載

 

2月ですね。2月といえばバレンタインデー。恋人たちが愛を誓う日ですね。我が国では、女性から男性にチョコレートを贈るというのが古典的な(?)バレンタインデーの習慣ですが、ヨーロッパでは、男性も女性も恋人に贈り物をしていますし、プレゼントの品もお菓子に限らず花やメッセージカードなど多様。ゆえに、男性から女性に御返しするホワイトデーという習慣は
、ヨーロッパにはありません。しかし、韓国や台湾にはホワイトデーの習慣があるそうで、文化というのは伝播していくわけですね。
 さて、バレンタインデーの甘い知らせが恋になり、愛に成長し、見事結婚にまで成就すると最高です。しかし、弁護士が仕事でかかわる場合には、そんなハッピーな話は来ません。そうでしょ、ハッピーな話なら弁護士に依頼する必要がありませんから。弁護士のもとに来るときには、不幸な話になっているんです。
例えば、ここにひとりの女性がいたとします。女性は、バレンタインデーで憧れの男性に告白。見事に恋が生まれ、二人は将来を誓って愛を育んでいた。女性のアパートに男が転がり込む形で二人の共同生活は始まった。女性は、いつの日か純白のウエディングドレスを身にまとうことを夢見ながら日々を過ごした。お互いの親にも紹介し、周囲もいつ結婚するのかと話題にするほど。ところが、1年たち、2年たっても男は結婚を口にしない。3年たったある日の夜、男は突然、別れを口にした。女は納得できない。あの約束はなんだったのか。しかも、男が将来のため仕事もきっちりするって言うから、男の借金を清算するために100万円も用立ててあげたのに・・・なんだったの私の3年間・・・みたいな話が来るわけです。
 皆さん、どう思いますか?「結婚詐欺」そんな言葉が聞こえてきます。
正確に言うと、結婚詐欺という犯罪や民事の訴訟類型はありません。
この場合、貸した金返せというのは当然として、女性は男に対して、婚約不履行を理由として損害賠償を請求することになります。
婚約不履行を理由とするわけですから、前提として、婚約が成立していないといけません。では、婚約はどういった場合に成立を認定されるのでしょうか。
 そもそも「婚約」とは、婚姻(法律用語で「結婚」のことです)の約束です。婚姻の場合は、婚姻届の提出という行為が要件となりますが、婚約にはなにか特別な方式を必要としません。結納や仮祝言などが行われることもありますが、このようなことが行われないと婚約の成立が認められないということではありません。裁判になるということは、男女のどちらかが訴えを起こしているということですから、「将来結婚しようという合意が法律上保護される程度に確実なものになっている」かが問題となります。裁判例では、同居もしくはたびたび宿泊するようになって一定の期間が経過している、お互いの家族に紹介している、将来の生活拠点となる不動産を賃借や購入しているなどの事情が重なると、婚約の成立を認めることが多いといえます。 
このようにいったん成立した婚約が、男女の一方から正当な理由がないのに一方的に破棄された場合、「ヒドイ」という叫びとともに損害賠償責任の問題となります。損害賠償が認められる場合というのは、婚約の破棄に正当な理由がない場合ですから、裁判では「正当な理由」があるのかが争いになります。しばしば問題となるのが「浮気」です。婚約者というのはまだ結婚していないんだから、別の異性と関係をもったからといって「浮気」にはならないのではとも考えられます。しかし、婚約が成立するということは、結婚を約束したということですから、二人は今後誠実に交際し、やがて婚姻を成立させるよう努める義務を負うわけで、そうであれば、結婚が成立するように、いわゆる貞操を維持する義務も発生するのです。もちろん、結婚は男女の自由な意思と愛情で決められることで、法律上強制することはできないのですが、婚約した当事者は結婚に至るように努力する義務があり、法律用語でいうと、誠実交際義務とか貞操維持義務と呼ばれることになります。というわけで、婚約している男女の間では「浮気」が問題となるわけです。
浮気、つまり婚約した男女の一方が貞操維持義務に違反する場合には、浮気をしたことで婚約を破棄させる原因をつくってしまった者は、相手方に損害賠償義務を負うことになります。ちなみに、浮気の相手となった第三者も婚約を不当に破棄させたことを理由として不法行為責任として損害賠償責任を負う場合があります。
ちなみに、損害賠償でいくら取れるのか。これは無駄になってしまった家財道具の購入費用や不動産を購入した際の費用などの実費損害が認められるほか、精神的損害に対する慰謝料も認定されます。慰謝料の額は婚約の期間、交際の程度、婚約破棄の際の事情などで決められますが、一般的には離婚より低額となっています。平成になってからは、交際期間が長い事案で500万円、1000万円といった高額の慰謝料を認定している例もあります。
 弁護士も幸せがイチバン。弁護士は人の不幸で飯を食っているなんて言わないで下さいね。
 

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