トップ キリンのひとりごと 【キリンのひとりごと Vol.01】 もしも・・・運動会でケガをしたら…
キリンのひとりごと
 

「キリンのひとりごと」はオキナワグラフ(新星出版)にて連載されている法律エッセイです。弁護士法人那覇綜合(旧 宮﨑法律事務所)の所属弁護士が交代で記事を毎月執筆しています。憲法のこと、裁判員裁判のこと、沖縄の地域生活など、時節に合わせたタイムリーなテーマをとりあげながら、暮らしに関わる法律のおはなしを分かりやすく解説します。

 
【キリンのひとりごと Vol.01】 もしも・・・運動会でケガをしたら…
2010年 11月 10日(水曜日) 13:20

 

オキナワグラフ 2008年10月号掲載

 

今月から、新たな連載をスタートします。よろしくお願いします。
私たちの生活には、法律が身近にあるって実感はないですよね。そこで、身近に起きる出来事や季節の行事も、意外と法律とつながっていることを知って頂ければと思い筆をとった次第です。しばしお付き合いを・・・
 
 10月と言えば、運動会。楽しみですね。 私は子供が3人いますから、もうここ十数年、運動会は大切な家族行事です。子供はもちろん、親だって参加します。しかし、保護者の参加でつきものなのが、ケガ。走ったはいいものの、気持ちだけ先に行ってしまい、足もとはついていかず、あれれ、あれれとスッテンコロリン。こんな光景、どこかで目にしたことありませんか?お気をつけ召されよ、大人の皆様。あの頃と同じ走りはもう出来ませんからね。
 
 さて、運動会では、時として児童、生徒が予期せぬ事故に遭い、ケガをする可能性もあります。かすり傷くらいならまだしも、ケガの程度が重いとか、学校側の対応に納得がいかないといった場合には、裁判にまで発展するケースもあります。こういった場合、例えば、お子さんが運動会でケガをしてしまい、学校に損害賠償を請求したいと考えた場合、法律的にはどのように考えるのでしょうか。
まず、損害賠償請求が認められるには、学校側に法律上の責任が認められなければいけませんね。学校側に「過失」(何らかの義務違反)があるかということです。学校は、公立であれ私立であれ、児童生徒の生命、身体等の保護をするために必要な措置をとる一般的な注意義務(安全配慮義務)があります。学校側に事故についての注意義務違反があれば、過失ありとなるわけです。
では、運動会での注意義務とはどんなことなのでしょうか。皆さん、そもそも運動会や体育祭がどんな位置づけされているか知っていますか。これも学校教育の一環として行われるもので、学校行事として、学習指導要領において特別活動のひとつとされています。運動会は、まさに一時的なものですから、生徒の危険対応能力が十分に備わっているとはいえないので、学校としては、十分な事前計画の策定や、生徒に対する適切な指示、救護体制の確立をして、生徒の安全を守るための措置をとることが求められます。
 
過去の裁判例を探してみたらありました。「騎馬戦転倒事件」。
皆さん、騎馬戦ってやったことありますか?馬役が3名で腕を組み、その上に騎士が乗り、相手方を引きずり落とすというルールです。相手とぶつかり合う戦いですから、馬役は互いに腕を組んで、腕がはずれにくくする訳です。そうすると、腕がはずれないままに転倒するとケガをするので、騎馬の組み方を習う最初の段階で、騎馬の倒れ方や倒れた時の腕の組み手のはずし方を習います。はじめの一歩、初歩ですね。ところが、この事件では、事前には、倒れ方と組み手のはずし方が十分に練習されていなかったそうで、学校側から適切な指導が行われていなかった訳です。この点に注意義務違反があるとして、学校側に損害賠償責任が認められた事案でした。
まだ、ありますよ、「人間ピラミッド倒壊事件」。
これは、高校の体育祭練習中の事故。ピラミッドが練習中に崩壊し、最下段の生徒が頸椎骨折の重傷となった事故でした。
この裁判例では、体育祭で人間ピラミッドを実施すること自体は、高等学校学習指導要領に定める組体操として授業の一内容となることを認めています。そりゃ、高校の体育祭で人間ピラミッドをやること自体は問題ありません。私も「質実剛健」を掲げる男子高校で、体育祭で人間ピラミッドやりましたよ。苦しかったことを懐かしく思い出します。
この高校では、事故前年に7段ピラミッドを2回失敗していたそうで、その年は8段に挑戦するとしたものの、前年の失敗経験を生かすことなく、危険回避の工夫や段階的な練習がされないまま、いきなり高度な組み立てを目指したことが事故の原因と指摘され、学校側の注意義務違反を認定し、損害賠償を認めています。
 それ以外にも「ムカデ競争転倒事件」なんてのもありました。
この裁判では、ムカデ競争自体が危険な種目であるかどうかという争点もあったようです。判決は、ムカデ競争では、「足が揃わず転倒するおそれがあり、転倒に至れば転倒した生徒に他生徒が将棋倒し様に倒れかかるなどして、生徒が負傷する危険が容易に予測できた」として、ムカデ競争自体に危険性が伴うと指摘しています。でも、そんなこと言ったら、ほとんどの競技は危険性があることになってしまいますよね。例えば、運動会の花形リレーだって、この判決の理屈にあてはめると、「全力で走る生徒がバトンパスに夢中になって互いに衝突するおそれがあり、衝突すれば転倒した生徒に他の走者が巻き込まれて、さらに倒れるなどして、生徒が負傷する危険が容易に予測できた」ということで、危険な競技と認定されかねませんよね。他に事情があったのでしょうけど、ムカデ競争が危険な競技というのは、表現としてはいささか行き過ぎかと感じますね。
 
 でも、運動会に参加した保護者がハッスルし過ぎてけがしたらどうなるんでしょうねぇ。対応する保険もあるけど、かかっている実績はあまりないらしい。保護者にレクレーション傷害保険をかけるのも一手かもしれませんね。
いずれにしても、ケガのないように運動会を楽しみたいですね。
 

PDFファイルはこちらをご覧ください